2005.12.22 小田島賢連載コラム No.02 「AKIRAとの約束」
2 002年6月にSSAを立ち上げた。選手育成をベースにサロモンのマテリアルを使用している選手を上へと押し上げることに専念する組織である。私はサロモン社から受けたその業務委託を快諾させていただき、早速ある選手のモチベーションをさらに上げて4年後のトリノ五輪へと導くことを最重要課題として着手し始めた。フランス・サロモン本社へ飛び、当初は皆川選手の引止めのために彼が不安視していた今後のマテリアルへの不安を取り除くことを目的に、本社のエンジニア、サービススタッフとのコミュニケーションを図ることが一番の近道だと思ったからだ。本社のエンジニア、ジョンマゼリ氏は日本選手のポテンシャルの高さに早くから注目してくれて、どのようなスキーが適合するのか親身になって考えてくれた。そして出た結論は今開発中の新しいスキーのいくつかを実際選手に見せて、説得に当たって欲しいということであった。彼に感謝の意を示し、スキーを抱えてすぐに私は帰国した。
速サービスマンの伊東にそのスキーを見せ、このスキーで来季を戦っていきたい意向を伝えたのだった。その春の国内のレースで膝の靭帯を断裂し、手術してリハビリを行っていた皆川選手にスキーを見せたのであったが、詳細は省くが結果としてはスキーを変更し、心機一転今後に備えるというものであった。確かにその言葉は私たちに衝撃を与えるに充分ではあったが、私と伊東、そして国内のマテリアル担当の堀川はここで活動を鈍らせてもいけないと意見が合致し、常に前を見ていこうという結論を下したのだった。
東はすぐにAKIRAにコンタクトをとり、今後サロモンジャパンのナンバー1選手はAKIRAで戦っていくことを伝えた。AKIRAはすぐに私たちの会社を訪ねてくれて、そのドレッドヘヤーにしたばかりの髪型では頭が痒すぎてたまらんというせりふを連呼しながらこうも言った。

「やっとナンバー1になれたんだからスキーをやめる理由なんてなくなりましたよね。一気にモチベーションも上がりましたよ。がんばります。」
と言った。しかし、私たちはその言葉を受けてこう付け加えた。

「ナンバー1の座を奪還したのはAKIRAにはプラスに左右することは確かだけど、でもここではっきりさせなければいけないのは、自分たちがチームとしてどのような時間のスパンで、何を目指し、またその目標に向かってどんなことをしなければならないのか、ここで約束事をしたい。
A KIRAは確かにそのスキーセンスがすばらしいことや、また選手としての気質も申し分なく、ポテンシャルの高さは群を抜いた存在であったが、でもトップ選手を育成していく中で、必ずしなければならないこと、それはレースに出場するための、そのレース期間の何十倍もの時間を費やしての細かな準備作業だった。これに関しては、私たちができるのは選手個人のマネジメント(スケジュール管理やスポンサーの収集など)、マテリアルのセットアップであるが、しかしそれ以外で選手がこなさなければならない最大のポイントはコンディショニング。これに関してはその時点でのコンディションのデータを測定し、ある程度のスパンの時間をかけての忍耐強いトレーニングだったのだ。これこそAKIRAが一番苦手としている部分で、その当時私が聞いていたAKIRAのコンディショントレーニングといえば、おざなりのものでしかなく、そして体調管理面においても食事の管理もかなりずさんだった。
「約 束期間を4年に設定しよう。これは4年後に五輪があるからというわけではない。4年を2年区切りに分けて最初の2年をベースの身体作り、そして後半の2年をトップ選手として戦う勝負の2年と設定する。大まかではあるけれどそのぐらいの約束事は必要だと思う。管理する、管理されるという関係ではなく、まだ日本人の誰もが踏み入れたことのない優勝という未開の地に踏み入るために全てが共同作業であると捉えることが一番大切だと考えて欲しい。」

私たちはそのような話し合いを行った。そのときAKIRAは間髪いれず、
「これでルールは決まったので、早速今日からでも準備に入りますよ。まずは身体作り、いやーでもしんどそうだな・・・。」

そして黙って聞いていた伊東がそこで一言。
「じゃあAKIRA、前から気になっていたけど
まずはブーツサイズを1サイズ(1センチ)小さくしようか。フリースタイル仕様ではなくて、アルペン用にきっちりと足にフィットしたものでね。」

そうそうAKIRAはもともとフリースタイル愛好家として暇さえあればハーフパイプなどのパークに入ることを一番の楽しみとしていたが、ブーツがフィットしすぎるとジャンプからのランディングでブーツの中で足の爪が当たってしまい、爪が死んでしまう。それを嫌って
わざと1サイズ大きなブーツでアルペンスキーもしていたのだ。このレベルの選手であるのに!!

AKIRAは苦笑いしながら、
「やっぱり伊東さんにはバレテました!?」
屈指のない笑顔で彼はいかにも痒そうなドレッド頭をかいたのだった。
<続く・・・>

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